ペンと剣の強さについて

あるとき経営筋を通して下の如き苦情に接した。曰く、

模擬試験の成績が予想外の悪さであった。現状の勉強を続けてゆけば心配ないと言っていたではないか。どう責任を取ってくれるのか。

返金請求も辞さぬ勢いであったとのことで、思わずセネカの『怒りについて』を（日本語で）読み直してしまったほどである。経営筋は、これまで指導の仕方を逐一確認しながら進めてきたこともあり、わたくしには何ら非はないと言ってくれたのであるが、わたくしにも考えはあるのでそれを共有しておくのが良かろうと、次の如く応えた。

確かにそう言ったが、実際には現状のままゆかなかったのである。本人が目標の意義を見失って空しさに取り憑かれ、勉強どころの話ではなくなりつつあるのを見て取って、一時間もっぱら対話に費やし、その後数回は精神の立て直しに充てたこと、経営筋とも合意の上行った所である。本志に従わないとどうなるか、先方にも数箇月前警告していたが、予言の通りになったわけである。しかしこれこそ本人が再生する好機であり、今日課題に取り組むときなど、これまでで最も良い表情を見せていた。かかる姿を見もせずに目方で男を量られては、挨拶に窮する。もし責任を取れと言うならば、わたくしは筆で腹を切るしかない。これが母校の校章の教うる所である。

間へ挟まった経営筋こそ好い面の皮であったが、致し方ない。さて、これは無論わたくしが格言を戯れに〈異化〉した解釈であり、他人もかく思うべしと言うつもりはないが、ペンが剣より強いならば、剣よりも遥かに多くの人を殺せる筈である。そして実際そうして来たわけであろう。国内の「敵」を銃口へ送ったのは独裁者のペン一本ではなかったか。また煽動家の舌鋒に衆口が唱和することもある。

上下を問わず〈苗字帯刀御免〉のめでたき世の中に、「神々は渇」き、人々は餓えることもあろう。ペン先を浸す血に。